当院で接種可能な破傷風ワクチン

破傷風の発生状況

全世界でみられる疾患で、主に発展途上国において毎年約50万人が破傷風で亡くなっています。日本国内では年間100人前後の患者が報告されていますが、そのほとんどは破傷風を含む3種混合ワクチンが1968年に定期接種化された以前に生まれた方です。

破傷風ワクチン接種をお勧めする方

すべての発展途上国に渡航する方、また先進国であっても土壌で怪我をする可能性の高い活動(登山など)を予定している方にお勧めします。 破傷風ワクチンはDPT(ジフテリア・百日咳・破傷風) 3種混合ワクチン(定期接種として乳幼児期に計4回接種)およびDT (ジフテリア・破傷風)2種混合ワクチン(定期接種として11~12歳に1回接種)に含まれています。DT 2種混合ワクチンを接種している方は20代前半まで(約10年間)は免疫がありますが、最終接種から10年経過している方は、追加の予防接種をお勧めします。

破傷風ワクチンの代わりに成人用の3種混合ワクチン(Tdapティーダップ:Boostrix)を接種するとジフテリアと百日咳の予防も兼ねることができて有利です。過去に破傷風を含むワクチンを3回以上受けていない方は、新たに3回の接種が必要です。

破傷風とは?(感染原因と症状)

感染経路

破傷風菌は世界中の土壌中に広く常在しており、転んでケガをしたり古釘や切り株などを踏み抜いたり、動物に咬まれたりしてできた傷口から侵入します。特に舗装道路の少ない発展途上国で発症頻度が高くなっていますが、2011年の東日本大震災の際には被災時にうけた傷口から感染した10名の破傷風患者が報告されていることからも分かるように、先進国においても注意が必要です。

症状

通常、受傷から3日~21日の潜伏期を経て、破傷風菌が産生する毒素(神経毒および溶血毒)による特有の症状が出現します。最初は口が開けにくくなり(開口障害)、顔面や首の硬直が起こります。その後、全身のケイレンや呼吸ができないなどの症状が現れて、人工呼吸管理を含めた集中治療が必要となります。抗菌薬や免疫グロブリンなどで治療しますが、致死率は10~20%と高値です。

百日咳とは

百日咳菌によっておこるけいれん性の咳発作が特徴の急性の呼吸器感染症です。

子供は重症化するリスクが大きく、 成人は軽症がほとんどの百日咳

百日咳は大人では軽症のことがほとんどですが、子供が百日咳にかかると、ワクチンを接種していない生後6か月未満の乳幼児は特に重症化しやすく、無呼吸発作(呼吸が停止する発作)やチアノーゼ(呼吸が不安定になり顔が青紫色になる)や全身のけいれんから突然死に至ることがある感染症です。

破傷風ワクチン接種による副反応

破傷風トキソイドを含むワクチンには軽度の副反応が見られます。副作用のほどんどは免疫を構築する過程で起こり身体が反応している兆候です。

主な副反応は、全身症状として、発熱、悪寒、頭痛、倦怠感、下痢、めまい、関節痛など、また局所症状とし て発赤、腫脹、疼痛、硬結などがみられることがありますが、通常、数日中に消失します。 まれに、ショックやアナフィラキシー様症状(全身発赤、呼吸困難、血管浮腫など)がみられることがあります。

DPTワクチン接種による副反応

一般に年長児や成人では、DPT接種後に強い局所反応が懸念されます。接種後に腫れが大きい場合は、体内で免疫反応を起こしている可能性が高いため、次回の接種の調整を検討します。

主な副反応は、接種部位の発赤、腫脹、しこりなどですが、通常、数日中に消失します。

成人にTdapワクチンを推奨する理由

百日咳には全細胞ワクチンと無細胞ワクチンの二種類のワクチンがあります。

全細胞ワクチンは「P」、無細胞ワクチンは「ap」を示します。 大文字と小文字の違いは、小文字は成分の含有量が低く抑えられていることを示しています。 百日咳の全細胞ワクチンの効果は78%、無細胞ワクチンの効果は71%から85%と言われています。ワクチンの効果は毎年2-10%ずつ減少しますので、無細胞ワクチンは全細胞より早く減少する傾向があります。しかしながら、副反応の面で全細胞ワクチンは6歳以上には投与するべきではないとされています。そのため、Tdapは10歳代以上に使用するワクチンとされています(WHOは4歳以上、米国は10歳以上)。日本では、DPTは定期接種として使用され、定期接種に該当しない年齢に接種する場合は接種量を考慮しての任意接種となります。

当院ではTdapを取り扱っております。成人の方が破傷風・ジフテリア・百日咳・ポリオのすべてに対して免疫を獲得する場合は、TdapワクチンとポリオIPVワクチンの2種類接種をお勧めしています。

Tdapワクチン接種による副反応

主な副反応は、接種部位の発赤、腫脹、疼痛、しこりなどがみられることがありますが、通常、数日中に消失します。

破傷風ワクチンの効果・回数・値段・大人の接種について

定期予防接種で12歳の時に接種していれば、約10年間の免疫持続がありますので、20代前半までは免疫があります。最終接種から10年経過した方は、Tdapワクチンで追加の予防接種をお勧めします。 定期接種をしていないまたは接種歴が不明な大人の方の場合、破傷風ワクチンまたはTdapワクチンを併用し3回接種をして基礎免疫を構築します。ブースター(追加)接種をするタイミングは、気づいた時にいつでも接種可能です。

外傷時の破傷風予防対策

破傷風の曝露後対策

  • 破傷風のワクチンを今まで何回接種したか
  • その傷が清潔で小さな傷であるか、あるいはそれ以外の傷であるか

今までに3回以上の破傷風を含むワク チンを接種した方:

  • 清潔で小さな傷であれば、10年間は接種不要とされています。
  • 傷が深いまたは汚染が強い傷であれば、最終接種から5年 以上経過している場合に1回追加接種がすすめられます。

これまでワクチンの接種がなかった方:

  • 清潔で小さな傷であっても破傷風ワクチン接種は推奨されます。
  • 傷が深いまたは汚染が強い傷の場合は、破傷風ワクチンおよびグ ロブリンの併用をすすめられています。

予防目的による破傷風ワクチン接種の料金

予防目的の場合:

定期接種以外で破傷風トキソイドを含むワクチンを希望するは、任意接種となりますので健康保険適応対象外=自費診療となります。ワクチン代金のほかに診察料も自費となります。

自費診療は医療機関により料金設定が異なります。

怪我に対して破傷風の注射を受ける場合の料金

国内において外傷後の発症予防としての破傷風ワクチンは、健康保険の適用となります。傷口に土がつき、土壌中に生息する破傷風菌が体内に侵入することにより引き起こされる感染や動物に咬まれたことにより引き起こされる感染の可能性がある場合などです。

妊娠中の破傷風や百日咳を含むワクチン接種

妊婦又は妊娠している可能性のある婦人で、破傷風に感染するおそれがあり、本剤の接種による有益性が危険性を上回ると判断される場合は接種することができます。

妊娠中に破傷風ワクチン接種をご希望の方は、かかりつけの産科にお問い合わせください。

破傷風を含むワクチン接種の不適当者および接種要注意者

接種を受けることができない人

  • 明らかに発熱(目安:37.5度以上)している人
  • 重篤な急性疾患にかかっていることが明らかな人
  • ワクチンに含まれる成分でアナフィラキシー(※)を起こしたことのある人
  • その他、医師が不適当な状態と判断した場合

接種を受ける際に注意が必要な人

  • 心臓病、腎臓病、肝臓病、血液の病気や発育障害などの基礎疾患のある人
  • 予防接種の接種後2日以内に発熱や全身性発疹等のアレルギーを疑う症状がみられたことのある人
  • 過去にけいれん(ひきつけ)を起こしたことのある人
  • 過去に免疫不全の診断がなされている人および近親者に先天性免疫不全症の人がいる人
  • ワクチンに含まれる成分に対して、アレルギーを起こす恐れがある人

破傷風ワクチンの種類と接種方法

破傷風トキソイドワクチン/DT/DPT/DPT-IPV(国産)

基礎接種:3回
接種間隔:初回、3~8週間後、12~18か月後
基礎接種後の抗体持続期間の目安:10年
 

Tdap 破傷風・ジフテリア・百日咳混合ワクチン(輸入)

追加接種:1回
基礎接種後の抗体持続期間の目安:10年
販売元:GlaxoSmithKline社
 
  • Tdapワクチンの接種は痛いですか?

    やや痛いです。

  • 破傷風ワクチンを接種する頻度の目安は?

    破傷風は約10年ごとに1回の追加接種で免疫を維持できます。
    1968年(昭和43)から始まった三種混合ワクチン(ジフテリア、破傷風、百日せき)に含まれていますので、定期予防接種で破傷風・ジフテリアワクチンを12歳の時に受けていれば、20代前半位までは免疫があります。その後は、約10年ごとに1回の追加接種で免疫を維持できます。

  • 破傷風の注射は10年ごとに本当に必要ですか?

    日本では破傷風ワクチンの在庫が切れることは基本的にありません。怪我をしないのが基本ですが、怪我をしてからでも医療機関で破傷風のワクチンは容易に接種できます。
    破傷風菌は土壌中に広く常在し、創傷部位から体内に侵入します。農業、建築業や工事現場で働く方など土壌で創傷するリスクが高い方や動物からの咬傷時に破傷風に感染する可能性がありますので動物を扱う職業の方は抗体価の維持をお勧めします。
    海外、特に発展途上国では、突然、破傷風ワクチンの在庫が切れることがあります。また、怪我をして医療機関を受診した際に現地の言葉で説明するのは難しい場合があり、正しい処置を受けることができない可能性もあります。海外にご出発される前には破傷風の免疫を付けておくことが推奨されます。

  • Tdapワクチンの接種後による副反応は何日ぐらい続きますか?

    主な副反応は接種部位の腫れ、発赤、痛みなどです。これらの症状のほとんどは接種してから24時間以内に始まり、3〜5日間続き、自然に消失します。

  • 妊婦にTdapを接種することで乳幼児を感染から守りますか?

    はい、守れます。
    百日咳は珍しい病気ではなく、Tdapを取り扱っている多くの国では、妊婦にTdapワクチンを接種して乳幼児への百日咳予防を実施しています。6か月未満の乳幼児が百日咳にかかると重症化するため、妊娠中にTdapワクチンを接種することで、赤ちゃんが百日咳に感染するのを防ぐことができます。
    乳幼児を守るために周囲の人にワクチン接種をする戦略をコクーン戦略cocoon strategyといいます。乳幼児への感染予防対策として、妊婦、家族 (父母、祖父母) などに百日咳を含むワクチンの追加接種を実施している国があります。
    米国:
    妊娠27~36週の妊婦に対して、Tdap(破傷風・ジフテリア・百日咳)ワクチンの接種が推奨されています。
    英国:
    2012年に妊娠28~32週の妊婦に対して、百日咳を含むワクチン接種を推奨し、2016年には16週以降の接種を可能にしています。
    イギリスでは百日咳を含むワクチンの初回接種が生後2か月となっているため、妊娠中に予防接種を受けた母親から生まれた赤ちゃんが生後数週間内に百日咳に感染するリスクが91%減少したと報告があります。
    ベルギー:
    2013年8月に妊娠24~32週の妊婦に対して、百日咳を含むワクチン接種を推奨しています。
    ニュージーランド:
    2013年に妊娠28~38週の妊婦に対して、Tdapのワクチン接種をブースター(追加接種)ワクチンとして推奨しています。
    オーストラリア:
    2013年に妊娠29~32週の妊婦に対して、百日咳を含むワクチン接種を推奨しています。( 「The Australian Immunisation Handbook」)
    その他、ブラジルや韓国でも妊婦に対してのTdap接種を推奨しています。

  • 猫に噛まれたり傷ついたりして破傷風になることはありますか?

    はい、あります。
    動物に噛まれてかかる主な感染症の一つに破傷風があります。注意したい動物は犬や猫・ヘビ・モグラ・ハムスターなど、土に触れる可能性のある
    物すべてです。

トップへ戻るアイコン